熊谷登久平アトリエ跡に住む専業主婦は大家の嫁で元戦記ライター

台東区谷中の洋画家熊谷登久平のアトリエ跡に住む次男に嫁いだ主婦の雑談

犬吠埼

犬吠岬
熊谷登久平
まぼろしのかげをしたいて」
といふ歌がはやつてゐる頃だった。

犬吠岬の厳台の光芒は間断なく明滅してゐた。私の隣の室に、あるときは支那服であるときは洋装で、ときには和服に着飾る美人がみた。
土曜日の夕方には男の人が十二、三人も、この美人を訪ねてきて宿をとるといふことだった。
一月以上も隣りあわせていたので、したしくしてみた。 一度東京に帰ったら電報がきた。
明日宿をひきはらうとのこと、宿の主人と銚子
駅までおくった。
その日の美人は洗髪に、ゆかた、紫の兵庫帯とふ格だった。
窓から首をだして一度たよりをするよといふて汽笛とともに去ってゐつった。
翌日、銚子警察署の刑事たちが、とんで来た。宿の主人や、私も、この美人について尋問をうた。この美人は、なんと色じかけのいかさま賭博師だったとのことだ。
太股の、小さな桜の花の刺青を思ひだす。

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「影を慕いて/古賀政男作詞・作曲」1932年(昭和7年)

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