熊谷登久平アトリエ跡に住む専業主婦は大家の嫁で元戦記ライター

台東区谷中の洋画家熊谷登久平のアトリエ跡に住む次男に嫁いだ主婦の雑談

ねんきん 表紙 ニースの宿 池之端画廊 熊谷登久平展

表紙のことば

ニースの宿
熊谷登久平

ここは南仏ニース。ホテル・アトランテックの十号室、街に面したテラスのすぐ上の室鈴懸
の樹かげに、美しい色とりどりの日傘がならんでゐる街。そして隣の室からは、SANIRTE M
ARTHE とかかれた緑の看板のおくの黄色の屋根の家、尼僧たちが、たちよるので、なんの施
設かと思ってゐたら、慈善病院とのことだった。緑の鉄柱のなかの花園、つつじの花が一杯に咲いてゐた。この二枚の絵を描きあげた、私は、スペインのバルセロナにとぶまへの時間を、おそらくは二度とは、来ないだろう室に、二日二晩、私を包んで寝てくれた、桃いろの羊毛のやわらかな毛布にくるまって横になった。
フランスとイタリヤの国境、モントンの丘のうへできいた、郭公のこる。今、雀が窓近くしきりに啼きつづけてある。青ひといろの地中海のひろがり、私は、はるばる遠くきたのだと、一人思ふのだった。

(原文のまま)

熊谷登久平画伯は、明治三四年、岩手県出身。独立美術協会々員。川端絵画学校修、藤島武二氏に師事。旧文展無鑑査。著書に「登久平絵と文」「陸中童暦」など。
(現住所 東京都台東区谷中上三崎南町五一)

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